イギリスの新しい1ポンドコイン

 

今日はイギリスの現金のお話です.2017年3月28日に1ポンドコインが新しくなります.現行の1ポンドコインは1983年に発行され,当初はイングランド,ウェールズ,スコットランド,北アイルランドを象徴するデザインが輪番で毎年発行されていました.21世紀に入ってからはミレニアムブリッジなども採用されていますが,4つの地域を象徴するデザインのコインも発行されており,合計で25種類のデザインの1ポンドコインが流通しています.

 

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写真はイングランド銀行の博物館です.イングランド銀行はポンド札の発行や金融政策に関わるイギリスの中央銀行です.お札については後半でお話しします.

 

新しい1ポンドコインは12角形となり,現行の1ポンドコインの9.5グラムから8.85グラムに少し軽くなります.厚さは3.15ミリから2.8ミリへと薄くなる一方で,直径は22.5ミリから23.43ミリへと大きくなります.1ポンド硬貨は厚くて重くて不便だと思っていましたので,変更は良いことだと思います.現行の1ポンドコインは2017年10月15日に廃止になり,使えなくなります.旅行の際には注意が必要です.新しい1ポンドの説明は下図を見てください.より詳しい情報は,イギリスのロイヤル・ミントのホームページを見てください.

 

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(出所)The Royal Mint, "RM £1 leaflet business.pdf", p.2.

 

ちなみに,イギリスポンドは100ペンス(単数形はペニー)=1ポンドとなっており,コインは1,2,5,10,20,50ペンスと,1,2,5ポンドがあります.このうち,20ペンスと50ペンスは7角形をしています.5ポンドは法定通貨ではあるものの受け取りの拒否ができるためあまり流通していません.

1ペンスと2ペンスは銅製に見えますが,銅製のものと銅メッキのものがあります.1992年からは銅価格の高騰を受けて鉄に銅メッキをしたコインが発行されるようになりました.そのため,これらのコインには鉄がメインで磁石にくっつくものと,銅がメインで磁石にくっつかないものがあります.

 

新しい1ポンドコインが作られる理由の一つに,偽コインがあります.2014年時点で1ポンドコインの3.03%が偽物,2015年には減っているものの2.55%が偽物だったそうです.先ほどの新コインの写真にも1から6まで番号が振ってありますが,これは偽物防止の工夫の説明です.特にコインの側面では交互に,縦線があってギザギザしている部分と滑らかな部分が続いています.3番の部分は,日本の500円のように傾けると角度によって「£」と「1」が見えるようになっています.

ちなみに,ポンドの記号「£」はリーブラの頭文字だといわれています.7世紀のフランク王国で使われていた,1リーブラ=20ソリドゥス=240デナリウスをまねて,1ポンド=20シリング=240ペンスになったとされています.この方式は1971年まで使われましたが,計算が困難なため,以降は1ポンド=100ペンスになっています.シャーロック・ホームズや名探偵ポワロなどではシリングやギニーなどの単位も出てきます.ポンドやシリングは銀,ギニーやクラウンは金を基にした単位であるため,金と銀の相場によって交換比率が異なりますが,ソブリン(20シリング),クラウン(5シリング),フローリン(2シリング),ファーズィング(4分の1ペンス),グロート(4ペンス),ギニー(21シリング)などが実在しました.この他にも,6ペンス,2分の1ペンス,4分の1ファーズィングなどのコインもありました.

 

コインが新しくなることで,自動販売機などの仕様の変更が必要になります.メディアは博物館などのロッカーやスーパーのカート(1ポンドなどを入れると鍵が外れる仕組み)も仕様の変更が必要で相当な負担が出ると報道しています.その一方で,膨大な需要が生まれるため,関連産業が賑います.

このような変更は一気に実行するのが重要です.日本では反対の声に配慮したり非常に長い移行期間を設けようとしたりして,結局は変わらないことがありますが,期限を区切って決めてしまえば,後は対応するしかありません.日本は人口が多いとか,地方や高齢者に配慮とか,できない言い訳が先に出てきますが,意思の問題です.

 

◆ イギリスポンドのお札

 

現在,ポンドのお札も新しくなりつつあります.2016年9月13日より,水色の5ポンド札が発行されています.ちなみに,現行の5ポンド札は2017年5月5日に廃止となり,買い物等で使えなくなりますので注意してください.2017年9月には10ポンド札,2020年には20ポンド札が新しくなる予定です.現在のところ,50ポンド札には変更の予定がありません.

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旧5ポンド

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新5ポンド

(出所)イングランド銀行ホームページ.

 

新しいポンド札の特徴として,ポリマー紙幣になったことが挙げられます.プラスチックの成分を混ぜることで,紙のお札よりもより清潔になり耐久力が増します.耐久力は2.5倍になると考えられています.また,手触りが変わるため,偽札を作るのが難しくなり,偽札防止にもつながります.上の画像では新5ポンドの方が大きく見えますが,実際には新5ポンド(125ミリ×65ミリ)の方が旧5ポンド(135ミリ×70ミリ)よりも小さいため,資源の節約にもなります.

 

イギリスのお札は,5,10,20,50の4種類ですが,実は他にもポンド札があります.1844年のピール銀行条例によって,銀行券(つまりお札)を発行できるのはイングランド銀行と決まりましたが,この条例の適用範囲がイングランドとウェールズに限られていたため,スコットランドと北アイルランドでは複数の銀行がポンド札を発行しています.現在でも,スコットランドでは3行,北アイルランドでは4行が独自にポンド札を発行しています.スコットランドでは1ポンドや100ポンドが,北アイルランドでも100ポンド札が発行されています.

 

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(出所)いずれも,The Association of Commercial Banknote Issuersホームページ.

 

スコットランドでも,今年の9月-10月にかけて5ポンドと10ポンドがポリマー紙幣になる予定です.

 

以前,スウェーデンクローナの新札の話題も紹介しました.ハンガリーの200フォリント札など,ヨーロッパの多くの国では新しいコインやお札が出ると旧いものが使えなくなります.旅行で持ち帰った現金が次の旅行で使えなくなることもありますので注意が必要です.

なお,現在ユーロも第一シリーズからエウロパシリーズへと切り替えが進んでいます.新ユーロ札は5ユーロから200ユーロまで発行される予定ですが,旧札も使えるので安心です.なお,新500ユーロは発行されず,旧500ユーロも2018年に印刷が終了します.その後も旧500ユーロは使えます.

 

本日はここまで.