EUでのオンラインバンキング利用率が51%に

 

ドライブのお話はちょっと中断して,先週はEUから興味深いニュースがいくつか出ましたので見てみましょう.

今日は,オンラインバンキング(インターネットバンキング)の利用についてです.

f:id:uchocobo:20180122103411p:plain

出所:データはEUROSTAT(欧州統計局)

 

アンケートはEU全域の20万人を対象にしています.オンラインバンキング(オンライン銀行)の利用率は2007年の25%から2017年の51%まで増加を続けています.このアンケートは「過去3カ月にサービスを利用したことがあるか」という問いなので,日常的に使っているのか,2カ月に1回程度使っているのかは判別できませんが,過半数を超えているというのはかなりの普及率ではないかと思います.

 

f:id:uchocobo:20180122110420p:plain

出所:データはEUROSTAT(欧州統計局)

 

こちらは加盟国別のデータです.2007年からデータがあるので,最新の2017年と比較しました.もともと2007年の利用率が高い北欧やベネルクス諸国は2017年でも高く,南欧や東欧は低くなっています.現金を使うことが多いギリシャは25%にとどまっています.

 

数値の高い国々では,キャッシュレス化も進んでいます.北欧ではデビットカードの仕組みがモバイルペイメントに応用されていて,スマートフォンを使って買い物ができます.スマートフォンのアプリで買い物すると,直ちに銀行口座から金額が引き落とされます.スウェーデンのSwishは日本でも有名になってきましたが,デンマークのMobilePayやDankortアプリ,スウェーデンのVipps,フィンランドのSiirtoなどのサービスが北欧で展開されています.これらのサービスについては以下もご覧ください.

 

川野祐司「北欧のキャッシュレス化の進展」『ITIフラッシュ』No. 359.

 

オンラインバンキングが進んでいる要因の一つに,銀行の収益力強化への圧力があります.2000年代の金融危機の結果,ヨーロッパの銀行の収益力は大幅に悪化しました.2010年代にはEUで経済ガバナンスが強化され,加盟国の財政や経済政策に改革のメスが入りましたが,金融部門の弱さがネックでした.そこで,銀行同盟,資本市場同盟などの金融市場改革が進められています.これらの改革の中で銀行は,不良債権の処理,収益力強化,預金-貸出モデルの修正などを迫られています.同時に,バーゼルIIIの完全施行が近づいており,銀行は環境の変化にさらされています.環境の変化という面では,技術の急速な発展があり,仮想通貨のような銀行を経由しない支払い方法が誕生し始めています.仮想通貨は現時点では銀行を駆逐する存在ではありませんが,徐々に経済に浸透しつつあります.

 

このような中で,銀行は支店を減らしたり機能の再構築を行ったりしています.町の中心部の支店ではフルサービスを,町の郊外の支店では一部のサービスのみを展開する,ハブ=スポーク型の改変を進めたり,支店を訪れた顧客をオンライン銀行に誘導したりしています.ヨーロッパの銀行では口座維持手数料やATM利用料などを課しているケースが多く,オンライン銀行に移行するとこれらの費用が低くなったりゼロになったりします.消費者側にもメリットのある改革です.

 

EUではSEPAという取り組みがあり,ユーロの国際的な決済が統一されています.例えばオランダ人が近所の銀行で口座を開いてデビットカードを作ると,19カ国のユーロ地域でデビットカードが使えます.また,オンラインショッピングでもオンライン銀行の口座を利用して決済ができます.ドイツ人がデンマークのオンラインサイトで買い物をする場合にもクレジットカードを使う必要はありません.クレジットカードは小売店が負担する手数料が高い一方,デビットカードやオンラインバンキングは負担が少なくなります.ヨーロッパではクレジットカードよりもデビットカードの方がはるかに普及しています.

 

f:id:uchocobo:20180122224436p:plain

出所:データはEUROSTAT(欧州統計局)

 

オンラインバンキングは若い世代だけが使っているのではないかという疑問もありますが,上の図からは55歳以上で42%,65歳以上でも28%が利用しています.特に,普段インターネットを使う人だけを対象にすると,55歳以上で58%,65歳以上で53%と大きく利用率が上がります.

EUでは2018年1月から,PSD2(決済サービス指令2)が施行されました.決済サービスを展開する事業者などのルールが統一され,銀行口座の情報を取得しやすくなりました.アプリの開発がより活発に進むことが予想されます.また,EUの多くの加盟国では政府サービスのオンライン化を進めており,高齢者もインターネットに触れる機会が増えていくでしょう.このような環境の変化がオンラインバンキングの利用率を高める要因になりそうです.

 

本日はここまで.