使い捨てプラスチックの削減に向けて

 

今日はEUが公表した廃棄プラスチックの削減に向けた戦略のお話です.詳しい情報は以下のページを見てください.

European Commission - Plastic Waste

2018年6月:記事の最後に追加情報があります

2018年10月:記事の最後に追加情報があります 

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出所:Special Eurobarometer 416 (2014), Attitudes of European citizens towards the environment, p.56.

今回の戦略は,2015年に採択された循環型経済に関する行動計画の一環です.一部のニュース解説では,中国の廃プラスチック政策に対応したものとされていますが,たまたま時期が重なっただけです.

 

EurobarometerはEUレベルで実施されているアンケートです.非常に広い範囲の分野でアンケートが実施されており,上図の環境に関するアンケートは3年に一度実施されています.上図のアンケート結果は2014年のものです.2017年の最新のアンケートからはこの設問が除かれています.

 

2014年のアンケート416に比べて,2017年のアンケート468ではプラスチックに関する設問が増えています.その中から一つ見てみましょう.

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出所:Special Eurobarometer 468 (2017), Attitudes of European citizens towards the environment, p.79.

 

プラスチック袋の多くはレジ袋だと思われます.一度限りで捨てないで再利用すればYesになります.もちろん,レジで袋をもらわない人もYesになります.EUは2015年に1994年の指令(EUが作成する法律)を改正する形でレジ袋削減の対策を採っています.

 

今回のプラスチック削減戦略を進める理由として,EUはプラスチックによる海洋汚染を強調しています.ヨーロッパのビーチに打ち上げられるごみのうち,84%がプラスチックだそうです.しかも,ごみ全体の50%は使い捨てプラスチック製品であり,この部分を改善する必要があるというわけです.

使い捨て製品として,ライター,飲み物のボトルやキャップ,綿棒,衛生タオル,袋,お菓子の包装,ストローやストローを入れる袋,風船,食品のトレー,コーヒーなどのカップやふた,スプーンなどを挙げています.確かに,持ち帰りのアイスコーヒーをストローで飲むと,一度しか使わないプラスチック製品がごみになります.

 

海洋でさらに問題になるのはマイクロプラスチックです.マイクロプラスチックとは大きさが5㎜以下のプラスチック片のことです.化粧品,洗剤,塗料などにも含まれているプラスチックだけでなく,もともとは大きかったものが波にもまれて小さくなったものも含まれます.特に,波に長い間もまれると目に見えないくらい小さくなります.マイクロプラスチックは小魚などの体内に入り,食物連鎖を経て人間も食べています.

健康に与える被害は今のところ未知数ですが,私の記憶では2010年代初めころからヨーロッパではテレビのドキュメンタリー番組などで問題が取り上げられていました.なお,化粧品の中には日焼け止めクリームも含まれるのではないかと思います.日焼け止めに含まれる粒子が海洋を汚染して,最終的に人間の体内に取り込まれます.

 

では,EUの報告書,European Commision (2018), A European Strategy for Plastics in a Circular Economy, COM(2018) 28 final (SWD(2018)16final). に基づいて戦略を見てみましょう.Link to Document1が本文,Link to Document2が今後修正する予定の法律のリストです.

 

ヨーロッパでは年間2580万トンのプラスチックが廃棄されており,31%が埋め立て,39%が焼却処分されています.世界全体では年間500から1300万トンのプラスチックが海洋に投棄されていますが,そのうちEUは15万から50万トンを海洋に投棄しています.そのうちマイクロプラスチックは7万5000トンから30万トンと考えられています.

近年は生物分解性プラスチックが徐々に増えていますが,ラベル表記などの統一性がない問題やオキソ生物分解性プラスチックなど一部の商品は環境に悪影響を与えるなどの問題があります.

 

このような問題に対処するためのEUの戦略は大きく3つに分けられます.

第1の戦略は,プラスチックのリサイクルを進めることです.リサイクルを進めるために,リサイクルしやすいデザイン,リサイクル製品の需要の拡大,プラスチック製品の分別の促進を進めようとしています.リサイクルしやすいデザインとは,プラスチック製品への添加物の表示や統一化を指します.プラスチックは一見するとすべて同じように見えますが,実は種類がたくさんあるようです.添加物によりリサイクル手法が変わるため,これらがきちんと表示されていないとどうリサイクルしていいのか分からなくなります.特に包装に用いられているプラスチックは消費者が捨てるプラスチックの60%を占めているため,表示のルールなどの法制化を進める予定です.

例えば自動車の部品に使われるプラスチックは,普通のプラスチックよりも燃えにくく加工されています.このような製品の表示ルールも統一化させる必要があります.

リサイクル製品の需要については,価格面やリサイクルの不便さが障害になっています.プラスチックは大量に必要なのに,リサイクル品は少量しかなく品質への不安もあるため,なかなか利用されていません.プラスチックリサイクルの研究への資金援助とルール作りが必要です.

分別については,あまり具体的なことが書かれていません.プラスチック製品にラベルを付けて分別して捨て,それを効率よく仕分けするシステムが必要です.

 

第2の戦略は,プラスチックごみそのものの量と投棄の削減です.ここでは,ごみの削減,生物分解性プラスチックに対する法制度,マイクロプラスチックの問題が挙げられています.

ごみの削減については,リユース(reuse)を進めることも重要です.ペットボトルに関しては,ドイツ,デンマーク,フィンランド,オランダ,エストニアなどではデポジット制度(ドイツではプファンドといいます)が普及しており,ペットボトルのリユース率は94%に上っています.これはジュースなどのペットボトル飲料を販売する際にデポジットを上乗せし,飲み終わった後にスーパーなどで回収してデポジットを返金する仕組みです.日本でも昔は瓶の回収に使われていました.

プファンド - 欧州徒然草

ドイツなどでペットボトルの飲料を買うと,ボトルに擦り傷が入っていることがありますが,リユースしているためです.リユースしやすいように,ボトルが日本よりも頑丈にできています.また,リユースしやすくするためにはボトルの形などのデザインの統一も必要です.このような取り組みでごみを大幅に減らすことができます.日本ではリユースは考慮されていなため,ペットボトルはラベルをはがして捨てますが,ドイツでは種類の判別のためラベルは付けたまま店舗に返します.

飲料水に関しては,ヨーロッパでは水道水を飲まない人がかなりたくさんいます.ペットボトルの水を買うことはごみ排出につながります.そこで,EUは飲料水指令(Drinking Water Derective)を制定する予定です.水道水の品質を上げればごみの削減につながります.

また,ごみを増やす要因として,caffe to goのようなto goサービスの普及も挙げられています.カップのふたやストローなどは一度使っただけで捨てられてしまい,リユースされていません.観光地などでこれらが適切に捨てられていないために,ごみが海洋まで達しています.また,釣りやマリンレジャーでもプラスチックが多く使われていますが,これらも適切に捨てられていないことが問題視されています.一般の人々に対してこのようなリユースや適切な廃棄をどのように促したらいいのかについては,いい解決策がない,とも言っています.使い切り製品や過剰包装を抑制させるための研究は幅が広く,行動科学なども必要だとしています.

企業に対しては素材・製品開発や研究支援などが可能で,約3億4000万ユーロが予算措置されています.例えば漁船から出るプラスチックごみを陸上で適切に処分するためのインフラ整備や,海上で集めたプラスチックの処理施設などの整備を行う予定です.

生物分解性プラスチックに関しては様々な種類があり,一般向けに販売されているものが必ずしも自然環境下で分解されるわけではないそうです.特に,コンポスト分解性プラスチックは,家庭用のコンポスト機に入れても分解されないものもあるそうです.これらのラベルや品質の統一化を図ることを目指しています.個人的には,コンポスト分解性プラスチックは良いアイデアだと思います.ビニール袋に生ごみを入れてそのままコンポスト機で堆肥にできるのは便利です.なお,オキソ生物分解性プラスチックは将来的に禁止される予定です.

マイクロプラスチックに関しては,化粧品,塗料,タイヤなどから環境に排出されています.化粧品についてはすでにいくつかの加盟国で規制が始まっており,REACHという化学物質に関する規制に加えられる予定です.日本でもナノ粒子などの名前でマイクロプラスチックが添加された化粧品がありますが,環境には大変悪いことはあまり知られていないのではないでしょうか.海洋にすでに出てしまったマイクロプラスチックを回収する研究も必要です.

 

第3の戦略は,循環型社会にするための研究と投資です.プラスチック産業は重要な産業の一つであり,全面的にプラスチックを禁止するのではなく,環境面で安全なより性能の高い製品やバリューチェーンを作ればいい,という発想です.研究の例として,電子透かしを利用したプラスチックごみの選別や淡水中でも分解される分解性プラスチックの開発が挙げられています.また,トウモロコシの芯から作られるような化石燃料を使わないプラスチックの開発にもEUは資金を拠出しています.

 

現在はこのような戦略についてのパブリックコメントを募集している段階で,2018年末までにはさらに具体的な行動計画として公表されるのではないかと思います.

EUはプラスチックを使ってはいけないとは言っていません.使い捨てをできるだけ止めて,リサイクルしやすいようなごみの捨て方を考えよう,ということです.カフェでアイスティーを飲むときに,ストローを使わずにコップから直接飲む,というのは簡単にできる対策ではないでしょうか.

 

本日はここまで. 

 

【2018年6月に追記】

2018年5月28日に,欧州委員会から「特定のプラスチック製品による環境負荷削減に関する指令」が公表されました.名前が長いので,「使い捨てプラスチック削減指令」と呼ばれることになると思います.「指令」というのはEUが制定する法律の一つで,EU全加盟国に適用されます.少なくとも2019年3月までは,そして脱退の移行期間中もイギリスは適用対象となります.

 

今後は閣僚理事会や欧州議会で法案の審議が進められます.同時にEUに加盟する27カ国の議会でも審議されます.法案が成立すればイギリスにも適用されますが,脱退を通告したイギリスは法案の審議ができません.イギリスは早く脱退を完了しないと,法案審議には関われないのに適用されるという不利な状況が続きます.

 

削減指令では,10種類のプラスチック製品と漁具に対して規制が課せられます.規制対象は,綿棒,カトラリー(スプーン,ナイフ,フォークなど),風船,食品容器,カップ,ペットボトル,たばこのフィルター,ビニール袋,飴などの包装,衛生タオルと生理用品,漁具です.製品ごとに異なる規制が課せられます.

 

*綿棒,カトラリー,皿,ストロー,マドラー,風船のスティック
 紙製など新しい素材への変更が義務付けられ,プラスティック製の製品自体に罰則が科されるようになります.ペットボトルに関しては,ボトルと蓋がセットになっていれば生産して市場に出すことが許されます(リユースできるため).

 

*食品容器,飲み物のカップ
 加盟国には使用量削減の数値目標の設定が課されます.使用量を減らすために,プラスチック製品を無料で配布しないようにすることも求められます.コーヒーを買う時にプラスチックと紙製のカップを選べるようにして,プラスチックだと1ユーロ料金が上乗せされるというようなルールが導入されるかもしれません.

 

*食品容器,ラップ,飲み物容器,カップ,たばこのフィルター,濡れティッシュ,風船,ビニール袋
 生産者に対してビーチなどでの清掃費用などの負担が課せられます.

 

*ペットボトル
 加盟国には2025年までにリサイクル率を90%にすることが義務付けられます.前に紹介したドイツのプファンドなどの制度が各国で導入されるかもしれません.

 

*衛生タオル,濡れティッシュ,風船
 製品には,廃棄方法,製品による環境への悪影響,プラスチックの利用量などのついてラベルを付けることが求められます.

 

 このように見ていくと,風船には多くの規制が課されるようになります.風船を飛ばすイベントが世界各地で行われていますが,これらの風船が海洋汚染の原因になることを意識している人は少ないのではないかと思います.詳しくは以下をご覧ください.

European Commission - PRESS RELEASES - Press release - Single-use plastics: New EU rules to reduce marine litter

 

 

【2018年10月に追記】

10月24日に使い捨てプラスチック削減が欧州議会を通過しました.今後は閣僚理事会の承認,各国議会の承認などの手続きを経て施行されます.今のところ,2021年の施行を目指しています.

 

EUの資料によると,海洋のごみの49%が使い捨てプラスチック,27%が漁具,18%がプラスチック以外のごみ,6%がその他となっています.世界ではプラスチック製のストローを廃止する動きが出てきていますが,ストローがごみに占める割合はごく小さく,ビニール袋なども対策を採る必要があります.ごみの削減を進めつつ,海洋でも十分に分解するプラスチックの開発も進める必要があります.

 

なお,前日の23日には改正飲用水指令(drinking water directive)も欧州議会で可決されています.指令の改正は,2013年の「Right2Water」という市民運動により集まった160万人の署名がもととなっています(EUのルールでは100万人以上の署名があると法整備の手続きが検討されます).EU市民が安全な水を安価に使えるようにするもので,水源の確保やより安全な水道管の開発などに加えて,マイクロプラスチックのモニタリングも含まれています.水道水がより安全になることで,ボトルドウォーター(ペットボトル入りの水)が減少することも期待されています.

 

プラスチックごみに関しては日本は非常に問題のある国だといえます.日本は年間150万トンのプラスチック廃棄物を途上国に輸出する形で押し付けています.最近はプラスチックごみの輸入を禁止する動きが出てきており,日本にごみが貯まるようになっています.きちんとしたごみの処理を考えずに途上国に押し付けていたツケが回ってきています.先進国として無責任だといえます.

背景には日本人の環境問題に対する意識の低さがあります.例えば,私がキャッシュレス化の問題に関して現金の原料(紙など)の節約や輸送などでのCO2排出の問題を解決できると話しても多くの聴衆はポカンとしています.どうして経済学者がCO2の話をするのか,と訝しく思っているようです.

私たちの経済活動にはCO2排出が付いて回ります.ゼロにすることは難しいかもしれませんが,できるだけ排出を低くすることは不可欠で,企業にとどまらず私たち個人にも責任のある行動が求められます.しかし,このような意識を持つ日本人は非常に少ないのが現状です.海岸での花火のイベントなどがあると,人々は大量のプラスチックごみを浜辺に捨てていきます.

そもそも日本はプラスチック原料を輸入に頼っています.プラスチックの使用量の削減と適切なリサイクル・廃棄システムを構築することは,日本経済にとってプラスになります.環境問題への対応はビジネスにとって明らかにプラスであるのですが,啓蒙活動が不十分で正しい理解をしている人が少ないように思えます.