1セントと2セントの将来

ユーロの現金は,コインが8種類とお札が7種類あります.
お札は2013年から「エウロパシリーズ」が発行されており,毎年,5ユーロから順次新紙幣が発行されて2016年は新しい50ユーロ札が発行されます.


今日は,コインのお話です.
ユーロのコインは100セントで1ユーロです.1,2,5,10,20,50セントと1,2ユーロのコインがあります.1,2,5セントの3種類は銅製です.
ユーロは19カ国で使えますが,そのうち,フィンランド,オランダ,ベルギー,アイルランドでは,買い物で1セントと2セントを使わない方式に移行しています.具体的には,スーパーなどでの買い物の合計額を5セント単位にそろえています.買い物の合計額が11ユーロ11セントの時には,お店からの請求額が11ユーロ10セントになり,1セントお得です.ところが,合計額が11ユーロ13セントになると請求額は11ユーロ15セントとなり,2セント損します.その他の場合では,


1セント,2セント→0セントに切り下げ
3セント,4セント→5セントに切り上げ
6セント,7セント→5セントに切り下げ
8セント,9セント→10セントに切り上げ


となります.商品の1個1個の価格は1ユーロ99セントなど,9で終わるケースが多いので,1個だけ買うと損することが多いですが,複数の商品を買うと損をしたり得をしたりで,相殺されると考えられています.このような支払い方法を「ラウンディング」といいます.ユーロを使っている国では4カ国ですが,スウェーデンやチェコ,ハンガリーなど多くの国で採用されています.ラウンディングが適用されるのは現金での買い物です.クレジットカードやデビットカードでの買い物には適用されず,正確な金額で支払いできます.


現金払いの多い日本でも,カード払いや電子マネーでの支払いが徐々に増えてきました.ヨーロッパでも現金払いは徐々に減っており,カード(デビットカードが多いようです)やSMS(ショートメールを使って支払いをする方式)が増えています.市内バスの運転手が現金を受け取らないので,カードで払うか1日券などを事前に用意しておくケースも見られるようになっています.


ラウンディングが実施される理由は,現金の管理には多くのコストが必要となるからです.店が1セントが50枚入ったロールを準備するために,送料や手数料で40セントかかり,合計で90セントのコストがかかるケースもあるそうです.数えるのも面倒ですし,保管も大変です.特に1セントは100枚集まってもたったの1ユーロでかさばる割には価値がありません.長い目で見て収入に損得がなければ,8種類のコインが6種類になるとコスト削減効果が大きく出ます.日本ではカード会社に払う手数料を嫌って現金支払いを求める店が多くありますが,現金の管理コストを意識すれば変わっていくでしょう.


政府の側にも1セントをなくしたい理由があります.国によって違いがありますが,ヨーロッパ平均では,1セントを1枚作るために1.6セントかかります.1.6セントかけて作ったコインを1セントで売るため,作れば作るほど財政赤字が増えてしまいます.1セントは銅製であるため,金属に多くのお金がかかります.イギリスの2ペンスは銅に見えますが,最近は鉄に銅メッキしたコインが作られており,コスト削減が進んでいます.そのため,古い銅製のコインは磁石に付かず,新しい鉄製で銅メッキのコインは磁石に付きます.もっといいのは,このような少額のコインは作らないことです.フィンランドでは,2002年にユーロの現金が導入されたときから少額硬貨はコレクター向けにのみ作っています.フィンランドの1セントを手に入れたければ,土産物屋で1,2,5セントのセットを買うしかありません.


消費者の側から見ても,1セントと2セントは判別が困難で失くしやすく,不便だと感じています.1セントと2セントの廃止には59%の市民が賛成しています.


このような状況を見て,EU(欧州連合)も1セントと2セントの廃止に向けた議論を進めています.将来は5セントもなくなるかもしれませんね.

デンマークでは,100Øre=1DKK(デンマーク・クローネ)ですが,

1-24Øre→0Øre
25-74Øre→50Øre
75-99Øre→1DKK

のラウンディングが実施されます.またスウェーデンでは,100Öre=1SEK(スウェーデン・クローナ)ですが,

1-49Öre→0Öre
50-99Öre→1SEK

のラウンディングが実施されます.



より詳しい情報は以下を見てください.

川野祐司「アイルランドにおける現金での支払い方法変更について」ITIフラッシュNo.256


本日はここまで.