決済の利便性向上に向けて

今日は,7月2日にヨーロッパの16の銀行が欧州決済イニシアティブ(European Payments Initiative)のスタートを公表したというお話です.

 

2019年の銀行数トップ10

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出所:EBF(European Banking Federation)

上の表はヨーロッパの銀行数上位10カ国です.銀行数や店舗数,銀行員数は21世紀に入って減少傾向にありますが,ドイツなどではまだまだ多くの銀行が活動しています.EU27カ国+イギリス+EFTA(アイスランド,ノルウェー,リヒテンシュタイン,スイス,この4カ国からスイスを除くとEEAになります)32カ国の銀行数は6498となっています.

 

1銀行当たりの行員数にはばらつきがありますが,支店を多く持っている銀行もあれば,インターネット上で展開している銀行もあります.規模も様々です.行員数が少ない方が効率的だと一概には言えませんが,アイルランドやフィンランドなどICTが発達している国(そして人口の少ない国)では1銀行当たりの行員数が少なくなっています.

 

◆SEPAがユーロの利便性を広げる

EUではSEPA(Single Euro Payments Area)というユーロ決済の統一化の取り組みがあります.ヨーロッパではクレジットカードよりもデビットカード(銀行のキャッシュカード)の方が多く使われていますが,すでに,EUにEEA諸国などを加えた34カ国でユーロの国境を越えた決済が実現しています.「国境を越えた」というのをクロスボーダーといいます.

 

SEPAにより,各国の決済システムの連携が進みました.決済システムというのは難しい用語ですが,お金のやり取りをする際に背後で働くシステムを指しています.自分が持っている口座の銀行と振込先の相手が持っている口座の銀行が異なると,銀行間でお金を動かす必要が出てきます.その背後で動くのが決済システムです.通常は,中央銀行(日本では日本銀行)が決済システムの運用を行いますが,EUではユーロ19カ国の中央銀行であるECB(欧州中央銀行)がTARGET2という決済システムを運用しています.TARGET2により,クロスボーダーの決済が可能になりましたが,TARGET2は大きな金額を動かすのに適したシステムで,個人の買い物など少額の決済には使われません.

そこで,SEPAでは,SEPA instant credit transfer (SCT Inst)というシステムが稼働しており,少額でもリアルタイムに近い決済ができるようになっています.

 

人の移動が盛んなヨーロッパでは,ドイツ人がフランスで買い物をするような国境を超えて決済するケースはよくあります.SEPAがスタートする前は,自国で作ったデビットカードは自国でしか使えず,不便でした.SEPAによって利便性が大きく向上し,現金を持ち歩く必要が低くなりました.デビットカードが便利になればクレジットカードを作る必要がなく,小売店側も手数料のクレジットカードよりもデビットカードの方が手数料が低いため,キャッシュレス化に踏み切りやすくなっています.

ちなみに,EUではクレジットカードやデビットカードを使うことによる追加料金の請求は禁止されています.ただし,American ExpressとDiners Club card,法人カードを使う場合には追加料金の請求が認められています.販売価格が100ユーロと表示されていれば,現金でもクレジットカードでも同じ料金を支払います.この100ユーロには税金や手数料も含まれています.日本のような税抜き表示は認められていません. 

 

◆実際には分断がある

制度上はSEPAによってどこでもユーロの支払いができるはずですが,実際にはシステムが国ごとに異なっており,決済市場が分断されています.この分断のことをフラグメンテーション(fragmentation)ということもあります.

分かりやすいのがスマートフォンのアプリです.ドイツのワイヤーカード(Wire Card)は粉飾決算で世界的なニュースになりましたが,スマートフォン上にカードを載せて支払いができるアプリを展開しています.このようなアプリが使えるのは国内に限られており,外国ではプラスチック製のカードを使うのが普通です.また,EU全体で見ると,小売店などの取引50%近くで現金が使われています.EPIがうまくいけば,EUのほぼ全域で使えるアプリが登場し,利便性の向上が見込まれます.

 

EPIに参加するのは,BBVA(スペイン),BNPパリバ(フランス),BPCE(フランス),Caixa銀行(スペイン),コメルツ銀行(ドイツ),クレディ・アグリコール(フランス),クレディ・ミューチャル(フランス),ドイツ銀行(ドイツ),ドイツ貯蓄銀行協会(シュパルカッセ,ドイツ),DZ BANK(ドイツ),ING(オランダ),KBC(ベルギー),バンク・ポスタル(フランス),サンタンデール銀行(スペイン),ソシエテ・ジェネラル(フランス),UniCredit(イタリア)の16行です.また,Banking Federation of the European Union (EBF),European Savings Banks Group (ESBG),European Association of Co-operative Banks (EACB)などの団体も参加し,VISAとマスターカードも参加します.

 

現在は参加国が偏っていますが,今後は,各国の銀行や決済サービス事業者(PSP)の参加が見込まれており,2022年には統一的なプラットフォームがスタートできるのではないかと期待されています.

 

現段階ではどのようなサービスが可能なのか,いつごろまでに何ができるのか,などは明らかではありませんが,SEPAの完成に向けた動きだといえます.日本人観光客などEU外部の人にも使いやすいシステムやアプリができるといいですね.

 

本日はここまで.