『ヨーロッパ経済とユーロ』が発売になりました

 

今日は画面の右上にも出ている『ヨーロッパ経済とユーロ』についてです.幻冬舎ゴールドオンラインで本の一部を読むことができます.

 

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2016年11月に発売になった本の紹介です.ヨーロッパ経済に関する本はたくさんありますが,この本は具体的な記述と範囲の広さが特徴です.目次を順に見ていきましょう.

 

第1部:EUの経済政策

 第1章 ヨーロッパ経済の今

  1.ヨーロッパとEU

  2.加盟国別の経済指標

 第2章 EUの仕組み

  1.EUとは

  2.EUの諸機関

  3.EUの権限

  4.EU予算

 第3章 欧州2020と地域政策

  1.欧州2020の重点分野

   (1)賢い成長

   (2)持続可能な成長

   (3)包括的な成長

  2.欧州2020の達成状況

  3.EUの地域政策

  4.広域地域プロジェクト

 第4章 EUの経済ガバナンス

  1.経済通貨同盟

  2.欧州セメスター

  3.財政面の経済ガバナンス

  4.経済通貨同盟の未来

 

第1部では,EU(欧州連合)の基礎知識,加盟国とEUとの関係,近年どのような政策を行っているのか,などに焦点を当てています.21世紀になってEUは13カ国の加盟国を迎えて28カ国体制になっています.21世紀の加盟国の多くはEUからの支援を必要としており,EUは主にインフラ整備と農業支援に力を入れています.

欧州2020は2010-2020年までのEUの成長戦略ですが,技術の発展や環境問題への対策だけでなく,若年層の就業支援や多くの人々の社会参加などにも力を入れており,本書では具体的なプロジェクトもいくつか紹介しています.環境問題に配慮することは経済にとってマイナスだと日本では受け止められていますが,EUは全く逆の考え方をしています(詳細は第3章).

EUは加盟国に対して財政赤字の削減を求めており,EUの経済リスクとして日本では報道されています.また,EUの中では通貨はユーロで統一されている一方で,財政はバラバラという報道もあります.第4章ではEUが加盟国とともにどのような経済改革を行っているのかが扱われています.日本での一般的な報道が妥当かどうかの判断材料になるでしょう.

 

第2部:ヨーロッパの国々

 第5章 ドイツとフランス

  1.概況

  2.インフレ抑制か,成長か

  3.東西ドイツの経済格差

  4.労働コストの引き下げ

  5.インダストリー4.0

 第6章 ベネルクス・イギリス・アイルランド

  1.概況

  2.租税回避

  3.イギリスのEU離脱問題

 第7章 北欧諸国

  1.概況

  2.北欧の天然資源

  3.福祉国家は持続可能か

  4.住宅ローンの増加

 第8章 南欧諸国

  1.概況

  2.南欧経済のブーム,バスト,再建

 第9章 中欧・バルカン諸国

  1.概況

  2.スイス経済の競争力

  3.難民問題

 第10章 東欧諸国

  1.概況

  2.ハンガリーのユーロ建て債務

  3.東欧諸国とバリューチェーン

 

第2部では,ヨーロッパの様々な地域の特色を解説しています.EU加盟国28カ国に加えて,10の国・地域が取り上げられています.ヨーロッパにこれほど多くの国があることはあまり知られていないと思います.それぞれの章には「概況」という節がありますが,経済に限らず地理・文化・社会などに関する記述もあります.第2部では,ヨーロッパの写真も48枚掲載されており,観光している気分も味わえます.

いくつか問題です.ヨーロッパの地理的中心があるのはどの国でしょうか? 2つの国で国歌に同じメロディーが用いられていますが,どこでしょうか? アメリカに次いで,世界第2位の農産物輸出国はどこでしょうか? 町中に野犬が多くいるため観光客が注意しなければならないのはどこでしょうか? ヨーロッパで最も流通範囲が狭い通貨は何でしょうか? ヨーロッパにも捕鯨国がありますが,どこでしょうか? 本書の第2部で答えを探してみてください.概況部分には,各国の企業名や貿易相手国なども掲載されています.

第2部では,各地域にまつわるトピックも多数取り上げられています.イギリスのEU離脱や難民問題は日本でも多く報道されていますが,EUの北極圏政策や住宅ローン問題はそれほど知られていないようです.

 

第3部:ユーロ

 第11章 ユーロの基礎知識

  1.ユーロの現金

  2.ユーロ現金の利用状況

  3.ラウンディング

  4.統一的なユーロ決済

 第12章 ユーロの金融政策

  1.中央銀行の役割

  2.金融政策デザイン

  3.ユーロシステムとは

  4.金融政策手段

  5.金融政策手段とマネーマーケットとの関係

  6.金融政策の波及経路

 第13章 ユーロの金融政策の歩み

  1.金融政策の分析に必要な視点

  2.第1期:為替レートと景気

  3.第2期:商品価格への対応

  4.第3期:金融システム運営の整備

  5.第4期:病的緩和の金融政策

  6.金融政策は職人芸

 第14章 ユーロと経済をめぐる諸問題

  1.ユーロは経済を収斂させたか

  2.金融政策の波及は対称的か

  3.ユーロの罠

  4.銀行同盟

 第15章 ヨーロッパのマイナス金利

  1.マイナス金利とは

  2.ヨーロッパのマイナス金利政策

  3.マイナス金利政策の経済効果

 

第3部はユーロのまつわるトピックが取り上げられています.1ユーロコインの共通面にはヨーロッパの地図と1ユーロの刻印がありますが,実はデザインが2種類あることはあまり知られていないようです.また,お札も新しいデザインに変わりつつあります.どのような工夫がされているのか確認してみてください.

その後は,ユーロの金融政策に関する章が続きます.金融政策はニュースにも頻繁に取り上げられ,実際に経済に大きな影響を与えますが,大学の経済学部でもきちんと学ぶ機会が少ないのが現状で,金融政策をきちんと理解していない識者による間違った解説が多く出回っています.金融政策はマクロ経済学などで出てきますが,テキストレベルの解説と実際の金融政策とは大きく異なります.本書では細かい議論を省きつつ,できるだけ実際の金融政策の姿に近づけるように多くのページを割いて解説されています.エコノミストやアナリストなどのプロの人々が読んでも多くの発見があるでしょう.

第3部では,マイナス金利も取り上げられています.分かったようで分からないのがマイナス金利だと思います.マイナス金利がどうやって発生するのか,ヨーロッパでは何か起きているのか,経済にどのような影響を与えるのか,などマイナス金利に関する基礎知識を得るには本書が最も適しています.

 

本書には17のコラム(Box)があり,EUにたくさんいるプレジデント,付加価値税,農業のブランド化,EFTAとは何か,どうして住宅価格の問題がクローズアップされるのか,銀行が破綻するとはどういうことか,などEU経済を知るための多くのトピックが取り上げられています.

 

長くなってしまいましたが,この1冊でヨーロッパのことが何でも分かるように配慮されています.手元に置いておいて損はない1冊です.右上の写真をクリックすると,出版社のページに飛びます.下には通販サイトに飛べるようになっていますので,お好きなサイトからどうぞ.314ページ.税込み3024円です.

 

本日はここまで.