ヨーロッパの再生可能エネルギー

今日はヨーロッパの再生可能エネルギーの現状を欧州統計局の指標からみていきます.

 

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出所:EUROSTAT(欧州統計局)

 

目次

ヨーロッパの再生可能エネルギー比率は高い

再生可能エネルギーは,水力,風力,太陽光などをエネルギー源とするものです.石炭や天然ガスなどの化石燃料を発電に使うと温室効果ガスが発生するため,それを避ける目的で再生可能エネルギーが発電に利用されています.EUは2050年までに実質的なカーボンニュートラルを達成させることを政策目標にしており,フォンデアライエン欧州委員会もグリーンディールを重視した政策運営を行っています.

上図のように,EU全体では再生可能発電比率は37.5%と日本の10.3%(エネルギー白書2021,p. 134,PDFファイル)よりも高くなっています.日本はEUでは下から2番目になってしまいます.

 

日本では太陽光発電が利用されていますが,ヨーロッパでは水力と風力が主力です.EU全体で見ると,2020年時点で風力36%,水力33%,太陽光14%,バイオ燃料8%,その他(潮力など)8%となっています.

下の図は2018年時点のものですが,国によって使われているものが異なります.北欧では豊富な水資源を用いた水力発電が盛んですが,火山国のアイスランド(IS)では地熱発電も盛んです.グラフにはありませんが,フランス(FR)では潮力,スペイン(ES)では太陽熱発電も行われています.フランスは再生可能エネルギの比率が低いですが,国内電力の75%ほどを原子力で賄っており,余剰電力の輸出も行っています.

 

国別の発電状況(2018年)

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出所:『ヨーロッパ経済の基礎知識2020』,p. 137.

 

再生可能エネルギーは万能薬ではない

石炭や天然ガスなどによる火力発電は二酸化炭素などの温室効果ガスを排出することが問題視され,脱炭素の動きが広がっています.特にEUは2050年の実質的なカーボンニュートラルを目指して野心的な目標を立てています.なお,「実質的な」というのは,排出を植林など何らかの形で相殺できればいい,という考え方であるため,温室効果ガスを全く出さないという目標ではありません.

 

再生可能エネルギーは発電時に温室効果ガスを排出しませんが,風車などの生産・配送・設置・廃棄の過程で温室効果ガスを排出します.もちろん従来の発電設備でもライフサイクル全体で温室効果ガスを排出するため,再生可能エネルギーが悪いということではありません.ただ,再生可能エネルギーの発電設備であればどんどん作ってもいいのだ,ということにはならないということに注意する必要があります.

発電設備のライフサイクルも将来大問題を引き起こします.原子力発電所は設計当初の耐用年数を超えて運用されているものが多く,今後は世界中で事故が発生すると予想されます.大量に設置された風車や太陽光パネルは,将来汚染の原因になったり廃棄処理が追い付かずにごみ問題を引き起こしたりすることが予想されます.残念ながら,どの発電方法であっても,発電設備のライフサイクルを前提にした設置は行われていません.

 

風力や太陽光は供給が不安定という問題があります.2021年にはスペインなどで風力が不足してエネルギー不足になり,2021年冬にはヨーロッパの天然ガス価格が他の地域よりも大きく上昇しました.2022年現在では,ヨーロッパは地政学的な問題を抱えており,ロシアからの天然ガスの供給が止まると大問題になります.

 

EVが普及すれば電力需要は高くなる

ノルウェーでは2025年にガソリン車の発売が禁止されるなど,各国で電気自動車(バッテリーカー)への切り替えが進んでいます.ノルウェーではすでに新車販売の86%が電気自動車に置き換わっています.ここでは,電気だけで走る自動車(EV)と電気を充電するかガソリンで発電する自動車(PHV)が計算の対象です.日本のハイブリッド車(HV)はガソリン100%で走るので国際的にはエコカーに含まれません.

 

電気自動車の新車発売シェア(2021年,%)

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出所:European Alternative Fuels Observatory.

 

2021年末時点ではヨーロッパ全体でEV120万台,PHV106万台があります.上図はヨーロッパ(EU27カ国+EFTA4カ国+トルコ)の新車販売シェアです.2020年から大きく増えていますが,それでも20%に到達していません.下図は既存の自動車も含めた全自動車中のシェアですが,2%にも届いていません.

電気自動車が増えているといっても,現在のところはほぼゼロの状況です.しかし,電気自動車の販売は着実に増えています.電気自動車が増えるということは,電力需要が高まるということであり,ヨーロッパ各国は増える電力需要に応える必要があります.

 

最大の問題はエネルギー消費量

私たちが生活するとエネルギーを消費します.この文章はPCで作成していますが,それも電力を消費し,これを読んでいる読者も電力を消費しています.移動,居住(建設や暖房など),食事,衣服など,私たちの生活は様々な場面で環境に負荷をかけています.

人類が地球の自浄能力の何倍を排出しているのかを表す,アースオーバーシュートデイ(Earth Overshoot Day)という指標があります.これによると,地球の自浄能力の1.7倍の排出を行っており,地球環境が年々悪化していることになります.再生可能エネルギーによる発電など,少しくらいエコな活動をしたところで,地球全体で見ればほとんど効果がありません.

地球の自浄能力の範囲内に収めるためには,エネルギーの消費量を半分にするか,人口を半分にする必要があります.エネルギー消費量を半分にするのは現実的ではありません.例えば,日本では1億人を養うだけの食料生産がなく,多くを輸入に頼っています.そのほとんどは船で運ばれており,輸送に大量の化石燃料を消費します.国内での食料生産を増やそうとしても,肥料などを国内で生産できないために大量の輸入が続くことには変わりがありません.また,日本の水資源を農業用水に転用すれば,工業用水や生活用水が不足し,恒常的な水不足になります.

 

そうすると,人口を減らすのが最も効果的ということになります.人口増加がもたらす弊害については,以下も参考にしてください.

『世界の適正人口は20億人』世界経済評論インパクトNO. 2387 

『人口減少社会のすゝめ』世界経済評論インパクトNO. 576

 

 

本日はここまで