『キャッシュレス経済』が発売されます

 

今日は8月1日発売予定の本についてです.キャッシュレス化についてはヨーロッパを中心に研究を続けていましたが,本としてまとめてみました. 

2018年10月:追加情報があります

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日本人はクレジットカード,デビットカード(銀行のキャッシュカード),電子マネーを合わせると,1人当たり8枚持っている計算になりますが,キャッシュレスな支払いは全体の20%にとどまっていて,ヨーロッパのような先進国だけでなく途上国にも後れを取っています.世界各地で進んでいつキャッシュレス化とそれが経済に及ぼす影響,日本への処方箋が掲載されています.

 

目次

第1章:キャッシュレスは新しくない!
第2章:銀行はオンラインからモバイルへ
第3章:世界に広がる電子マネー
第4章:仮想通貨が世界を変える
第5章:迫りつつある電子通貨の時代
第6章:キャッシュレス経済の行方
第7章:キャッシュレス時代の金融教育
第8章:「おかね」とは何か 

 

第1章:キャッシュレスは新しくない!

キャッシュレスというとスマートフォンでQRコードを使って,という最新技術を思い浮かべますが,私たちはすでに銀行引き落としなどのキャッシュレスな支払い手段を使っています.キャッシュレス自体は新しい現象ではなく,日本では1000年ほど前から存在していました.本章では,支払いとはどういう行為を指すのか,改めて考えてみます.2人の間での支払いは簡単ですが,3人以上になると支払いの仲介者が必要になります.

日本のキャッシュレス比率はヨーロッパだけでなく,韓国やインドなどよりも低いことが分かっています.ヨーロッパでは北欧でキャッシュレス化が進んでおり,南欧やドイツではまだまだ現金主義です.

 

第2章:銀行はオンラインからモバイルへ

第2章では主にヨーロッパを見ていきます.ヨーロッパでは過去10年で銀行員は80万人減少しています.銀行数や支店数も減少しており,この傾向は今後も続いていくでしょう.銀行支店やATMを減らす代わりに,オンライン銀行やキャッシュレスな支払い手段の普及を図っています.ポーランドには顧客目線で有名なオンライン銀行もあります.

モバイルペイメントではスウェーデンのSwishやノルウェーのVippsなどが知られていますが,本章では北欧だけでなくベルギーやイギリスのサービスも紹介しています.ヨーロッパ各国の現金とキャッシュレスを巡る動きを国別に見ていきます.

キャッシュレスな支払いを支えるのは,決済システムです.ヨーロッパでは24時間365日リアルタイムで決済できるシステムがあり,キャッシュレス化を支えています.

 

第3章:世界に広がる電子マネー

電子マネーには様々な形がありますが,主に途上国で普及しています.先進国で数多くの電子マネーがある日本は珍しいといえます.日本の問題点は,電子マネー,ポイントサービス,地域通貨などの乱立にあります.

ケニアのM-pesaやインドのPaytm,中国のアリペイなど見ていきます.アフリカではモバイルペイメントの利用率は高く,ケニアでは日本の2倍以上の利用があります.M-pesaは国際展開しており,難民キャンプなどでも使われています.電子マネーは社会問題の解決にも役立っています.

 

第4章:仮想通貨が世界を変える

仮想通貨についてはネガティブなイメージが多いと思いますが,一方で仕組みについてはほとんど知られていません.第4章ではビットコインを例に仮想通貨の仕組みや,様々な種類の仮想通貨を見ていきます.ビットコインやイーサリアムなどは,本来は暗号通貨と呼ぶべきですが,日本の習慣に従って仮想通貨と呼ぶことにします.

仮想通貨は国際送金やマイクロペイメント,スマートコントラクトのデプロイなどの機能を持っていますが,一方でエネルギーの浪費や処理速度などの問題を抱えています.ビットコインのブロックチェーンではオフチェーンを使った様々な試みが行われており,中でも紛争ダイヤモンドの撲滅を目指した取り組みは有名です.スイスにはクリプトバレーと呼ばれる地域も生まれています.

多くの仮想通貨では,分散型台帳技術が使われており,その中の一つの形態であるブロックチェーンが注目を集めています.分散型台帳技術は分散型データベースと呼ばれる仕組みを利用しています.設計の幅が広いのが特徴ですが,日本ではコスト低減や安全性についての過信があり,注意が必要です.


第5章:迫りつつある電子通貨の時代

電子通貨(e-cash)とは,中央銀行が発行するデジタルな法定通貨を指します.研究者によって様々な呼び方があります.スウェーデンでは電子通貨e-kronaの研究が進んでいますが,多くの国で研究・実証実験が行われています.

現金のシステムには社会的コストがかかります.紙幣の印刷や輸送・管理などのコストは多額です.日本では銀行が社会的コストを負担しているため,多くの人は非常に安価に(ATM手数料や両替手数料がほぼ無料で)現金を利用していますが,ヨーロッパなどでは銀行が家計や商店にコストを転嫁しています.日本では環境問題への関心が低いためあまり議論されませんが,現金は輸送などの際にCO2を多く発生させています.キャッシュレス化は現金の社会的コストを低減させることができるだけでなく,最新の技術を使うことにより,安心して使える支払い手段の提供が可能となります.

第5章では,スウェーデンの研究をもとに,電子通貨に関わる問題点を検討します.電子通貨にIDを付けるか,電子通貨に金利を付けるか,災害時はどうするのかなどを考える必要があります.より実現性の高い電子通貨のシステムを提案しています.


第6章:キャッシュレス経済の行方

第6章ではここまで扱いきれなかったトピックを取り上げます.近年はチャリティーや寄付でもキャッシュレス化が進んでいます.キャッシュレス化はスマートフォンというイメージですが,体内に埋めたチップを使うバイオハッキングも実用段階に来ています.国境を越えた送金では仮想通貨の普及が銀行のシステムの改革を促しています.ヨーロッパでは,2018年に新しい法律が施行され,決済サービス事業者の参入が容易になりました.日本でも2018年に法改正やシステム改革があり,ヨーロッパで普及しているようなサービスが日本でも広がる可能性があります.

その他には,キャッシュレス化による経済効果,金融政策への影響も見ていきます.最後に,未来の予想図を描いてみました.

 

第7章:キャッシュレス時代の金融教育

キャッシュレス時代になると現金のような実体のあるお金が無くなります.子供たちへの教育は大きな課題となります.日本では金融教育が非常に遅れているため,本章では少し脱線して金融教育そのものについて見ていきます.第7章ではライフプランとマネープランについて詳しく見ていきます.

ライフプランとは,どこでどのような生活をしたいのかを明らかにすることです.私たちは漠然と未来を見つめていますが,人生のどの段階でどのくらいのお金がかかるのかを知った上で計画を立てることが重要です.子供の成長段階に合わせたライフプラン教育が欠かせません.

マネープランでは,アセットマネジメントの考え方を応用して,人生を通じた資産の管理を行います.本書では通常のアセットマネジメントの式に時間も加えて人生全体を対象にマネープランを考えます.具体的な投資配分ではノルウェーの政府ファンドを参考にします.1年で2倍とか,レバレッジをかけるとか,短期的な話は一切出てきません.

 

第8章:「おかね」とは何か 

キャッシュレス経済になると硬貨や紙幣はなくなり,スマートフォンなどに表示されたただの数字になります.それでは「おかね」とは一体何なのでしょうか.第8章では,歴史を振り返りながら「おかね」の本質に迫っていきます.

実は多くの研究者が採用している「歴史を振り返る」方法が,「おかね」の理解を妨げている側面もあります.現金にはどうしても金貨のような金属のイメージが残ってしまい,正しい理解を妨げてしまうのです.「おかね」に大切なのは「価値」ではなく「システム」です.

 

 

キャッシュレス化に関する書籍は少ない中で,特定の支払い手段に偏らずに多くの支払い手段を取り上げ,世界各地の最新情報にアクセスできる数少ない本だと思います.電子通貨や金融教育なども含めて多方面から「おかね」の本質に迫っています.

 

発行部数が少なめですので,予約を強くおススメします.Amazonではすでに予約を受け付けています.

紀伊国屋書店ウェブストアには比較的多くの在庫があります.

川野祐司『キャッシュレス経済』文眞堂
本体価格:2,000円+税,四六判・ソフトカバー(340ページ)
ISBN:978-4-8309-5001-8

 

 

本日はここまで.

 

【2018年10月追記】

『キャッシュレス経済』第1刷にいくつかミスがありますので訂正します.

35ページ左から5行目:2008年の360万人→2008年の326万人

46ページの図表2-5,MobilePayのフィンランドでのサービス開始時期:2013年12月

116ページ1行目:13億人→14億人

 

以上3カ所です.