クロアチアが20番目のユーロ国に

今日はクロアチアのお話です.クロアチアは2023年1月からユーロになる見込みです.

 

 

目次

kawano-europe-essay.hatenablog.jp

 

ユーロ導入のルール

EU(欧州連合)に加盟した国は加盟国と呼ばれ,自国通貨をユーロに切り替える義務があります.ただし,デンマークにはこの義務はありません.つまり,将来はEU27カ国のうち26カ国はユーロになります.もちろん,デンマークもユーロに切り替えることができ,その場合は,27カ国すべてがユーロになります.

 

EUには加盟していませんが,アンドラ,サンマリノ,バチカン,モナコ,モンテネグロの国々もユーロを使っています.

 

通貨を切り替えは経済や社会に大きな影響を与えます.特に,経済に与える影響を小さくするために,ユーロへの切り替えには収斂条件という条件が条件を課されています. インフレ率が十分に低いこと,長期金利が十分に低いこと,財政赤字が少ないこと,為替レートが安定していること,という条件があります.このうち,為替レートの安定が過去記事です.

 

クロアチアは2020年にERMⅡという為替レート安定の仕組みに参加しました.ERMⅡに最低2年間参加することがユーロへの切り替えの条件ですが,クロアチアは7月にこの条件を満たします.7月1日に,EUのルールを作る欧州委員会から,クロアチアのユーロ切り替えに関する勧告が出されました.勧告はEUが作る二次法と呼ばれる法律の1種です.勧告には法的な拘束力はありませんが,クロアチアが2023年1月からユーロになるのが確実だとみられています.

 

クーナの交換

クロアチアは南北に長い国です.人気観光地のドブロブニクはクロアチアのほぼ最南端にあります.小さいですが空港もあります.トロギールやザダールなどの観光地はアドリア海沿いに点在しています.アドリア海沿いには高速道路がありますので,車での移動が便利です.クロアチアの高速道路は有料で,ユーロとクロアチア・クーナで支払いできます.ユーロで支払ってもお釣りはクーナでもらいます.来年からは高速道路をはじめ交通費,宿泊費,買い物などすべてユーロになりますので,クーナの現金を準備する必要がなくなります.

 

 

夜のドブロブニク.ケーブルカーは料金が高いですが,時間とお金があれば昼と夜と両方行ってみるのがおススメめです.

 

クーナの現金は2023年6月までは,クロアチアの金融庁の窓口,銀行,郵便局で手数料無料でユーロに交換してもらえます.その後も銀行で交換してくれますが,手数料が発生すると思われます.クーナの紙幣は無期限で,コインはユーロ導入後3年まで交換できます.クーナの現金が余っている人は,少額の場合は記念として保管しておくのもおススメです.

資料:Government of the Republic of Croatia and Croatian National Bank,The National Euro Changeover Plan, December 2020

 

2023年1月にユーロ切り替えはがじまった場合,2023年2月末にクーナが法定通貨ではなくなります.法定通貨とは法律で「お金ですよ」と定められることを表します.つまり,ユーロとクーナが両立する期間は2カ月間で,その後はユーロのみがクロアチアのお金=法定通貨となります.実際には,2週間でほとんどの取引がユーロに切り替わるとみられています.2週間は短いように思いますが,バルト諸国などこれまでの実績でも2週間でほとんどの取引が切り替わっています.しっかり準備すれば,切り替えは短期間で済むのがユーロのすごいところです.

 

ユーロとインフレ

ユーロへの切り替えでいつも話題になるのがインフレです.クーナからユーロの切り替わるときに便乗値上げがあるのではないか,というお話です.ユーロの国が増えるといつも同じ話題が繰り返され,いつも同じ結論が出ます.それは,一般の市民は便乗値上げがあったと感じる一方で,公式の統計では便乗値上げがないというものです.

 

どうしてこのような食い違いがあるのかははっきりしませんが,交換の比率にも問題がありそうです.執筆時点ではユーロとクーナとの交換比率は正式に公表されていませんが,現在,ERMⅡで1ユーロ=7.53450クーナとされているため,この比率が使われる可能性が高いです.クロアチアの場合は最後がゼロで5桁の交換比率になっていますが,通常は交換比率は6桁です.

このような細かい交換比率はかなり面倒で,計算ミスも多発します.また,四捨五入も発生します.例えば,10クーナは,約1.327ユーロになるので,お店では1.33ユーロの値札が付くでしょう.1.33×7.5345=10.02となるので,ユーロに換算すると10クーナの商品が10.02クーナで売られることになります.これは計算上の問題で,便乗値上げとは言えません.「1.33ユーロは切りが悪いので,1.4ユーロ(または1.5ユーロ)の値札をつけよう」とすると便乗値上げといえます.1.4ユーロでは10.55クーナ,1.5ユーロでは11.30クーナなのでかなりの値上げです.

 

私は2015年にリトアニアに行く機会がありましたが,2015年1月にユーロを導入したリトアニアでは非常に細かい計算が多発して,1セントコインのやり取りが多くありました.交換比率は,1ユーロ=3.45280リトアニア・リタスでした.6リタスは約1.737ユーロで,値札は1.74ユーロになります.博物館の入場料もリタスの表示とユーロの表示が並記されていて,リタスで切りのいい数字になっていました.

その後,リトアニアに行く機会がないのですが,現在は表記はユーロのみ,ユーロで切りのいい数字になっているでしょう.どこかの時点で1.74ユーロの入場料は2ユーロなど切りよくなっているでしょう.地元の人が見ると,便乗値上げに見えるかもしれません.切りのいい数字への移行は,様々な場面でどんどん進むため,値上げが頻繁に発生しているように感じるかもしれません.

 

もっと大きな問題は,ユーロに切り替わることで企業や観光客がユーロ地域の国々から流入してくることです.生活必需品だけでなく,不動産(住居やオフィスビル),交通機関など様々な場面で需要(=お客さん)が増えて,その結果,値上がりが発生します.南欧では2010年代に民泊が盛んになったことで,低所得者向け賃貸住宅が民泊にも使われるようになり,家賃の高騰や更新の拒否が発生しました.経済の活発化には様々な恩恵がありますが,不利益を被る人も必ず出てきます.

家賃の高騰は多くの人に悪影響を及ぼします.ユーロに切り替え→人や企業の流入→家賃などの高騰,という経路でユーロのせいで物価が上がった,と感じる人が増えるでしょう.

 

インフレ率は消費者物価指数(ユーロ地域では統合消費者物価指数:HICPという名前です)で見ることができますが,この指数で見ると便乗値上げがあまり見られません.人々の感覚と統計の乖離は今後も問題として続いていきそうです.

 

クロアチアの観光

クロアチアは海と森が美しい国です.アドリア海沿いには美しい街が続いています.多くの観光地は海辺の城壁都市であり,見た目は似ていますが,街の中を歩くとそれぞれ特徴があります.

 

写真はプリトビーチェ国立公園です.おさんぽわんこさんのブログに詳しく載っていますので是非ご覧ください.

 

osanpowanko-europe.hatenablog.com

 

下の写真はザグレブの街並みです.右下にはケーブルカーの線路が映っています.日本で売られているガイドブックでは世界一短いケーブルカーだそうです.

 

ドブロブニクには空港がありますので,空路で行くことができますが,いろいろ回ってみたいのであれば,ウイーンあたりで車を借りて,スロベニアを経由してクロアチアまでドライブするのもありだと思います.ウイーンからスロベニアの首都のリュブリャナまで車で3時間,リュブリャナからドブロブニクまでは7時間ほどかかります.スロベニアもポストイナ鍾乳洞などいいところがたくさんありますので,ドライブをおススメします.

ヨーロッパでは自動車の法律が統一されていないため,複数の国をドライブするときにはレンタカーを借りるときに必ず訪問予定国を伝えてください.車種によっては走行できない国もあります.免許は日本の国外運転免許証でOKです.

 

本日はここまで.